生活者の中にブランドはどう作られるのか【D2C NEXT S1レポート】

2021年5月24日(月)に開催された、GAINWINGS CONFERENCE D2C NEXT。

Session1では、ブランドという目に見えないものが、どう生活者の心や体の中に作られるのかをテーマに、株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長・松田 崇弥さん、株式会社ADOORLINK マーケティングディレクター・高橋 朗さん、株式会社フラクタ 代表取締役・河野 貴伸さんの3名に議論してもらった。

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Speaker

松田 崇弥さん(まつだ・たかや)

株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長

代表取締役社長。チーフ・エグゼクティブ・オフィサー。小山薫堂率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。異彩を、放て。をミッションに掲げる福祉実験ユニットを通じて、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーのクリエイティブを統括。東京都在住。双子の弟。誕生したばかりの娘を溺愛する日々。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。

高橋 朗さん(たかはし・あきら)

株式会社ADOORLINK マーケティングディレクター

サステナブルな素材や製造技術にこだわったアパレルブランドを展開。学生時代にアルバイトとしてアダストリアに入社。 店⻑を経て、Eコマースの立ち上げ、マーケ ティング部門、アダストリア・イノベーションラボを立ち上げ、 新規事業開発へ従事。2020年11月グループ子会社 株式会社ADOORLINK設立。

河野 貴伸さん(こうの・たかのぶ)

株式会社フラクタ 代表取締役

テクノロジーとデザインで日本のDtoCブランドを支援するブランディングエージェンシー。ブランドの本当の課題を解決するために、問題の本質を捉え、戦略を立て、最適なアプローチを選択・実行する。

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■そもそもブランドとは?

河野:まずは、そもそもお二人にとってブランドとは?というところから伺えたらと思います。

松田:僕は、ブランドにはすごい力があると思っています。

「知的障害のイメージをどう変えていけばいいか」と考えたときに、障害を持つ人が描くアート作品の面白さを地元・岩手の同級生にも届くものにすればいいと思ったんですよね。とはいえ「アート×福祉」を押し付けても、どうしてもむずかしいと思われてしまうんです。ですが、地元の友人はレクサスの車は大好きですし、シュプリームは並んででも着たい。そう考えると、アート×福祉をブランドというところに入れたら、地元の友達にも届くのではないかと思いました。ブランド=本当は届かなかった層まで届くものだと思います。

河野:確かに、新しい出会いや視点のきっかけになりますよね。高橋さんはいかがでしょう?

高橋:私は元々、マルチブランドといわれる複数のブランドを束ねている会社で仕事をしていたので、「ブランドとは何か」を考える機会が多くありました。ここ2〜3年よりも前は、ブランドは排他性が強い傾向があったのですが、それがここ数年で変わってきた気がしています。「憧れ」から「共創していくもの」のことをブランドと呼ぶようになりましたよね。そして現在、D2Cに携わらさせてもらう中ですごく感じているのが、ブランドが「自分に似てる」ということ。ブランドという名の人格というか、擬人化している抽象化している何か、それがブランドだというのがしっくりきていますね。

河野:無機質なものだとなかなか理解は難しいですが、それが人格である、人であると思うと、一気に親近感が湧きますよね。

お二人はブランドビジネスをやりつつ、世界に対しても「こうなったらいいな」を実現していらっしゃいますよね。客観的な立場として、サステナブル・福祉という側面からのメッセージがあると親近感が湧くと感じることはありますか?

高橋:難しい質問ですね。

まだ世の中的には、「サステナブルだからいい」「サステナブルだから買おう」ということでもないとは思っています。ブランドをやっている立場からすると、社会が抱える課題と顧客のニーズをシンクロさせることを問われている気がしますね。それが世の中を変える原動力になり、お客様が自分ごとと捉えていただきやすいということは感じています。

■実現するために二人がやっていること

河野:では、より粒度をあげて、ここまでおっしゃっていたことを実現するために行っていることを教えていただければと思います。

松田:「人格」というところでいうと、ブランドとしての人格はすごく意識して大切にしています。ナイキのキャンペーンなど、人格を持って政権をも批判していくって面白いことだと思っていまして。誰がブランドとして好きで、誰とこれから一緒にやっていくのかなど、ブランドにどういう人生を歩ませていきたいのかという視点で考えることは、改めて意識していることかもしれないです。

河野:面白いブランドは、思想を明確に出していますよね。恐れずに発信していくことをしているように感じます。

松田:僕も「会社もブランドも、モノを売っているのではなく、思想や新しい考え方を売っているんだ」と会社のメンバーによく言っています。そうではないと大成しないと思うんですよね。「考え方をモノに乗せる」という順番がいいのかなと思います。

河野:高橋さんはいかがでしょう?

高橋:人格があるという話と通ずるのですが、事業の中の人が、みんな一人称で考え行動できることが大切だと思います。三人称だと、スピード感持って事業が回らないんですよね。小さなチームですけど、一人称で語って行動できることが大切だと思っています。

そして、できてることもできていないことも含めて、開示していくことも重要。「ここまでできているけど、ここが足りていません」「だから今これをやっています」を顧客・ステークホルダーに取り繕うことなく伝えることを心がけています。

河野:新しいチャレンジを信じきれなかったり、疑念を持ってしまったりということは、ブランドの内側でも起こり得ますよね。「あの人がこう言っているから」という一人称じゃないパターンって多いですが、それはブランドとしてはそれは辛い状況だと思います。しかも、お客様にも伝わらないですよね。そういうところから、地道だけど情報開示、伝えていくことが、人格を感じさせる重要な要素なのかもと、お聞きしながら感じました。

そして最近、ブランドに対するお客様の期待値も上がっていると感じています。松田さんのソーシャル上の投稿に対する熱量・スピードがすごいですよね。これは、20年前にはなかった世界であり、レスポンシビリティに変化していくことが求められているので、ブランド側の難易度がかなり高いように思います。

■その中で何が一番難しかったか?

河野:これまでお伝えいただいたアクションを実行するうえで、何が一番難しいと感じましたか?

松田:会社単位で難しかったのは、創業当時、アートデータを集めて様々な企業に持っていった時代です。なんとかアポを取り付けた企業さんから、受付で「無料なら考えます」と言われたこともありました。最初、チャリティーだと思われることが一番きつかったですね。福祉=社会貢献であり、「素晴らしいことやろうとしていますね」と感じられることが多く、ビジネスと紐づいていかなかったことが大変でした。

そんな中で「ダイレクトにお客様に売りたい」を体現したのがD2Cであると感じ、ECサイトの立ち上げを決意しました。「こういうことができるんだ」とD2Cによって提示できるようになってからは、BtoBの案件も決まるようになりましたね。最初にBtoCに舵を切ったのは、自分の中でいい決断だったと思います。

河野:お客様と作れたら、その外側の世界にも説得力を持たせられるのが大きいですよね。以前は、お金を使って多くの人に知ってもらうが先で、そこからBtoCに落とし込むしかなかったですもんね。戦略としてではなく、自然に出てきた形だったんですか?

松田:はい。最初はアートバンクをどう広げていくか、と考えていたのですが、実例がないからダメだと気づいたんです。自然に出てきたというと綺麗に聞こえますが、「実例を作りたい」という気持ちから行き着いた手段がD2Cブランドという形でしたね。

河野:高橋さんはいかがでしょう?

高橋:今も「難しい」の真っ只中にいます。SaaSの有名ツールを使ってECをリリースしたのですが、EC上の「なんでもできちゃう問題」にぶつかりました。機能面など足していけばキリがないので、絞り込みをしていかなければいけないという中で、必要条件と十分条件に分けてその場で意思決定をしないと、どんどんリリースが遅れてしまうことが、ディレクションをする上で一番難しかったです。

今度は、ビジネスを回すフェーズになってきたので、「ボトルネックになるKPIが何なのか」を見直すべき時期にきています。それが集客なのかCVRなのか、そこを悩みながら日々やっているのが現状です。

河野:お二人に共通していることですが、背景には泥臭さがあるのだと感じました。

「簡単」「儲かる」など、D2Cは誤解されやすいですよね。簡単に儲かる可能性がゼロとは言わないけれど、D2Cはある意味茨の道を選択するということでもあると言えるでしょう。

僕は、お二人のルーツも、ブランディングのプロフェッショナルであることも知っています。なのにも関わらず、泥臭いことをやり続けている。それこそがD2Cの真実なのだと思います。ですが、その先にブランドもお客様も楽しい世界が描けるというのが、D2Cが生活者においてのブランドに繋がっていくのだと、お二人の話を聞きながら感じました。

松田:河野さんから、サイトオープン当初「今砂漠のど真ん中にお店があると思ってください。なので今はURLを死ぬほど貼ってください」と言われたのが印象的でした(笑)。D2Cは聞こえがよく、利益率も高いようなマジックワードのようになることがありますが、砂漠に木を植えまくるような地道な作業が必要なものだと思います。持たれているイメージとのギャップがあると思いますね。

高橋:うちは太平洋でした(笑)。8畳の島が突然できた、みたいな。

■まとめ:「近江商人と三方よし」と生活者にとってのブランド

河野:近江商人は、売り手よし、買い手よし、という言葉だけに加えて「世間よし」という言葉を作り、それをポリシーとして活動していたといわれています。売り手よし、買い手よしが達成されて初めて、世間よしに取り組めるのではないかと思われがちですが、世間よしを究極に追求することこそ、ビジネスの成功に結びつくのではないかと考えています。

あえて言いたいのは、SDGsや福祉など、世間よしを提言している企業こそ大成功していくような世の中になると、本当の意味で世界が良くなると感じます。「いいことしているから儲からなくていい」という時代はもう終わったのかもしれません。

では、最後に、お二人が考えている解決すべき課題について伺いたいと思います。

高橋:社会課題・産業課題というと、重たく聞こえてしまうように感じます。ファッションは「ワクワク解決するもの」「楽しいものだ」というデリバリーの仕方が大切だと思っているんです。真面目に解決することは、ファッションには求められていない気がして。課題を楽しく生活者と解決していくことができて初めて、三方よしになるのだろうなと思っています。なので、今はどういう伝え方をすべきかをチーム内で考えているところです。

河野:「楽しい」ってすごく大事ですし、ワクワクは買い物ならではの感覚ですよね。アパレルは特にワクワクが大切ですね。

高橋:コロナ前は、誰かと買い物に行くワクワク、スタッフと話すワクワクがありました。それを、D2Cならではの形で実現するのが肝になってくると思っています。

松田:ワクワクするのは本当に大事ですよね。

障害者という言葉が出た際に「かわいそう」「欠落」と感じてしまうことが課題だと感じていて、これをここ10年で変えていきたいと考えています。そのうえで今は、ヲタクをかなりベンチマークにしています。それこそ電車男の時代は「ヲタク=危ないやつ」と思う人がいましたよね。それが今や、ヲタクを海外輸出するようになり、概念が変わってきていると感じます。なので、「障害者=素敵な作品、高値で作品が売買されているよね」という概念を作っていきたいと思っています。

河野:僕は、最近よく言われる「多様性」という言葉は、誤解されやすいと感じているんです。「認めろ!」という風に聞こえがちだけど、自分たちの価値観を押し付けることなく、他人の価値観を楽しめる余裕だと思います。ヲタクが受け入れられるようになったのは、ヲタク=よくわからないものへの恐怖心がなくなったからだと思うんですよ。その起点となるのがD2Cブランドになるのかなとお二人のお話を聞いて感じました。

というわけで、そろそろお時間になるので、最後に一言ずついただけたらと思います。

高橋:我々だけで世界を変えていこうというわけではなく、同じ哲学を共有しながら大きなコンソーシアムになっていけばいいなと考えています。なので、境界線を超えて協業できるパートナーさんを探していけたらと感じているので、機会があればぜひお声がけください。

松田:将来的には、さまざまな生地を世界中に輸出し、弊社のアートワークがパッと見てわかるようになるよう走っていきたいと思っていますので、ご期待いただけると嬉しいです!

河野:ありがとうございました!

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