LTVの鍵となる熱狂的なファンをどう生み出すか【D2C NEXT S6レポート】

2021年5月24日(月)に開催された、GAINWINGS CONFERENCE D2C NEXT。

Session6では、LTVの鍵となる熱狂的なファンをどう生み出すかをテーマに、株式会社yutori 代表取締役・片足 貴展さん、株式会社Ainer CEO・阿部 卓真さん、株式会社 Channel Corporation Japan CEO・Jayさんの3名に議論してもらった。

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Speaker

片石 貴展さん(かたいし・たかのり)

株式会社yutori 代表取締役

株式会社アカツキにて新規事業部の立ち上げに従事。2017年12月に個人的にインスタグラムアカウント『古着女子』を立ち上げ、2018年4月に初期投資0円の”インスタ起業”としてyutoriを創業。『9090』をはじめ複数のD2Cブランドや、バーチャルインフルエンサー事務所『VIM』などを手掛ける。2020年7月、51%の株式譲渡によりZOZOグループへジョイン。Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2020受賞。尊敬するアーティストは Suchmos と The Flipper’s Guitar

阿部 卓真さん(あべ・たくま)

株式会社Ainer CEO

ファッション業界から次世代の“ネオ アパレルブランド”と注目され、雑誌掲載多数でルミネ新宿にも実店舗を持つD2Cブランド「RANDEBOO」「by ensure」「Chérize」を運営し、国内市場だけではなく越境ECを軸にアジア市場へ展開。漢方ハーブブランド「danro」事業を買収。高校卒業後、留学でニューヨークへ渡米した際に日本と海外での起業に対する意識の違いに驚き、 「世界で誇れる企業をつくりたい」という思いにかられ、起業を志し日本に帰国。 インバウンド事業を経て、2016年9月に株式会社Ainerを創業。 経営の第一優先をファッションとし、”個の力”を大切にした経営を実施。 1億人のマーケットから70億人のマーケットへ圧倒的にグロースするため、国内外で多角的な経営を目指す。

Jayさん(じぇい)

株式会社 Channel Corporation Japan CEO

韓国No.1のアパレル企業の戦略企画コンサルタントや住友商事の韓国支店で勤務。米国系EC EbayにてMDで年商200億円を達成。リテールテックスタートアップ ZOYI Corporation(現 Channel Corporation)の日本CEOとして、実店舗の分析・O2O支援・ECの接客チャット提供

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■ファンの定義とは?ファンが重要だと気づいたきっかけ

Jay:本日は「LTVの鍵となる熱狂的なファンをどう生み出すか」をテーマに、人気あるブランドの代表2名の方と一緒にお話できればと思います。本日のメインテーマであるLTVは、最近注目が高まってきている分野だといえます。

LTVは既存のモデルでは説明しきれないことが特徴。マーケティングを高めてもLTVが上がるわけではないのです。

そこで最近注目されているのが、顧客はバリューとプライスしか見ていないという「顧客の販売プロセス」。バリューが高いブランドにはプライスが高くても購入されるし、バリューが低いブランドはその分プライスを低くしなければいけないというわけです。ブランドがコントロールできるのは、プライスとバリュー。そこでバリューをコントロールできる施策としてファンマーケティングが注目を集めているという経緯ですね。

では阿部さんは、ファンが重要だと思ったきっかけはどこにあったのでしょうか?

阿部:RANDEBOOというブランドが出来たのが、Instagramで洋服を売ることやインフルエンサーの案件がまだまだ少ない時代だった2016年あたり。ブランド誕生当初は、パートナーであるディレクターのseikaが19歳、僕が23歳だったのですが、今のRANDEBOOはその当時からずっと応援してくださっている方が本当に多く、ファンの方とともにブランドも成長していることを実感しています。

というのも、お客様の声を拾って作った「バケットバッグ」というカバンが年間通算10万個ほどの売り上げを記録しました。ファンの方が売り上げの大半を支えてくれ、そしてブランドを共に作ってくれているんです。なので、ファンは価値を一緒に一緒にあげていったりする存在だと思っています。

Jay:お客さんとの企画は頻繁に行っているんですか?

阿部:RANDEBOOではお客さんを「ふらっと遊びにきてくれる友人」だと思っており、かつ企画のときには親友のようにアドバイスをくれる存在だと思っています。そして、RANDEBOOのコンセプトは、愛という目に見えないものを服で表現するというもの。企画自体は年に2〜4回ほどなのでそれほど多くないのですが、恋人にように応援してくれている方が多く、だからこそ巻き込んで一緒に熱狂を生んでいっていると思っています。

Jay:Ainerさんのファンの定義って何なのでしょう?

阿部:価値観をお互い理解し合い、その価値をあげていく存在だと思っています。そして、友人であり親友であり恋人。それくらいファンという存在は大きいと思っています。

Jay:では、片石さんはファンが重要だと思ったきっかけはありますでしょうか?

片石:僕自身、趣味嗜好があまり変わっておらず、5年前に好きになったアーティストの曲を毎日聴き続けていたり、高校生のときに行った古着屋に通い続けたりしていて。自分自身がユーザー目線で好きなものをずっと好きでい続けることの尊さを実感していますし、そういった気持ちで自分たちの商品を楽しんでくれるお客さんが増えた方が、自分たちもブランドをやっていて楽しいというか、そういうことが商売になったらいいなと思っていたので、自分自身の原体験がきっかけになっているんだと思います。

あとは、そもそもアパレルが、トレンドなどといったコントロールできない外部の要因に左右されるビジネスであり、そもそもビジネスとして成立しにくい領域だということもあります。そういった外の要因に振り回されないためにも、お客様と直接繋がり、スタイルが更新されてもずっとファンでい続けてもらうことが重要だなと思います。

Jay:むずかしい質問かもしれませんが、片石さんが好きなアーティストや古着屋さんは、どんなポイントでファンになったんですか?

片石:僕はオリジナリティですね。特にアーティストは、ひとつのトレンドが生まれるとそれに続いて二番煎じ、三番煎じのアーティストが生まれますが、やはり最初はめちゃくちゃ叩かれるじゃないですか。僕は、叩かれつつも腕っぷしで証明していったアーティストやお店が好きなので、自分たちもそういう存在でありたいなと思っています。やり始めたときに「こんなのうまくいかないよ」「むずかしいよね」と言われた方が燃えるんですよね。

Jay:オリジナリティという言葉を聞いた瞬間、「だからyutoriさんのブランドからはそういった服が出るんだ」と納得しました。

片石:ありがとうございます!

Jay:ちなみに、yutoriさんのブランドのファンは、どのような方が多いんですか?

片石:ストリートブランドなので、メッセージをグラフィックにすることも多いんです。例えば、タピオカが流行ったときに、前面にタピオカを吸っているグラフィックを、後ろに“I DON’T WANNA BE CLONE“、量産型になりたくないというフレーズを入れたTシャツを作りました。

自分が思っていることを直接言うのは結構むずかしいじゃないですか。周りも同じことを思っていたらいいけど、自分しか考えていないことであればなおさら。マイノリティの意見を言葉にして伝えることはなかなかハードルが高いので、そういうときに洋服はコミュニケーションツールとして機能すると思っているんです。

それをその人が纏うことに意味があると思っています。9090は生意気がコンセプトなので、いい意味で自分の意見を持ったり、それを主張したりと纏うことで行動や価値観が変わっていくと、僕らもやりがいがあるなと感じます。

あとは、メディアやブランドから会社自体に興味を持ってくれて一緒に働いている仲間もいます。僕らは受け手と発信者はボーダレスだと考えており、お客さんも一緒に作っている友だちだと思っているので、そのグラデーションの中でそれが濃い人は中で働いているという形ですね。そこがさらにボーダレス化すると、自分たちのコミュニティがどんどん大きくなっていくような感覚があって楽しいのではないかなと思っています。

Jay:今、ブランディングを勉強しているのですが、ファンが生まれるブランドには2つの特徴があると思うんです。

ひとつが「一貫性」。そしてもうひとつが「巻き込む」こと。提供するだけではなく、お客さんと一緒に作っていくということがポイントだと思います。阿部さんのブランドもyutoriさんのブランドも、その2つがしっかり表現されていると感じました。

阿部・片石:ありがとうございます!

■ファンがビジネスに与える影響とは?

Jay:続いては、ファンが実際にビジネスにどのような影響を与えているのかを共有していただければと思います。

片石:僕らはInstagramやFacebookの広告などをほとんど出したことがなく、基本的にはオーガニックで成長させてきました。現在はフォロワーが100万人ほどいて、フォロワーの増加に伴って売り上げも上がってきた形です。

リュックが付録についている雑誌を発売した際には、その開封動画がTikTokでバズるなど、ファンが自然と広げてくれて、それをきっかけにファンが増加する流れになっています。

ストリートでいうと、コラボレーションも重要だと思っています。残っているストリートブランドはどれもコラボレーションがとても上手ですよね。文脈を更新し続けることはむずかしいですが、新しい文脈と融合することでブランド自身の新陳代謝をあげ、進化させていくことは大切だと思います。

ファッション業界はかなり閉鎖的なのが特徴。僕自身、ファッションは好きですが経験者ではなかったので、「若い子たちがInstagramでやってるやつでしょ?」と当初はかなりなめられていました。ですが、ファンの力で現象になるとそれが説得力になるので、実現しにくかったコラボレーションが実現するなど、ストリートにとって大事なコラボにもいい影響があったように思います。

また、熱狂的に自分たちのブランドが支持されていることを実感するとチームの士気が上がり、結果としていいクリエーションにも繋がっていると感じます。

Jay:バズりは狙っていたわけではなく、自然と生まれたんですか?

片石:ぶっちゃけ狙っていたわけではありませんでした。100%ユーザーの行動を予想することはできないので、弊社の商品をファンの方がどのように撮っているか・発信されているかなどについて、キャッチアップする早さと質を組織としては意識しています。

Jay:バズりやすいお客さんが多いことも影響しているかもしれませんね。

片石:そうですね。男性よりも女性の方がSNSを活用している方が多いので、入り口は女性メインのユニセックスアイテムとして発売し、徐々に男女比率を変えていくといったことは戦略的に行っています。

Jay:阿部さんは、ファンがビジネスに与える影響についてはいかがですか?

阿部:僕もyutoriさんにかなり共感しました。というのも、弊社もアパレル経験者がほとんどいなくて。当初は買い付けからスタートしたのですが、アパレル業界は閉鎖的なこともあり、先輩方からは「絶対失敗するよ」と言われていました。今こそ新宿ルミネ2に店舗を構えていますが、そう言われたことが本当に悔しくて「見てろよ」という気持ちでいました。

片石:一生忘れないですよね。

阿部:今でも悔しさは残っていますね。

片石:ずっと根に持ってますよ(笑)。

阿部:新宿ルミネ2でポップアップを開催した際、過去1の売り上げを叩き出したんです。そのときに「ほら見ろ」と思いました(笑)。それと同時に、アパレル業界は敵だらけだと感じました。だからこそ、絶対にAiner帝国を大きくして、ファンの方を味方につけて見返してやろうと思ったんですよね。その気持ちを持ち続けたまま、今も走り続けています。

そして、ここまで続けてきた中で、二桁億単位を超えていくブランドは、とてもファンを味方につけているところが多いと感じています。弊社も広告費が月に20〜30万円と、売り上げに対してかなり少ない状態の中で思うのは、オーガニックのファンの方は、未来のファンを呼んできてくれるということ。私がこういう場で「悔しい!」と言うと、「がんばれ!」と応援してくれるんですよね。ファンの方がブランドを成長させてくれるというところは本当にすごいと思っています。

現状、リピーターが7割を超えてきているのですが、ビジネスではあるものの、ひとつのコミュニティとして、セカンドファミリーとして一緒にかっこよく老けていけたらいいなと今は思っています。

■ファンをどのように増やしているのか

Jay:続いては、ファンの増やし方についてお伺いできればと思います。まずは阿部さんからお願いします!

阿部:正直、意図的に増やそうとしていることはないんですよね。

ファンもブランドを一緒に作り上げている仲間という意識が強いので参加型の企画が多く、それによって「私が伝えた内容が反映されて商品になって、それが人気になっている」と喜んでさらにファンになってくれる。そして、その方がInstagramにアップしてお友だちに広がり、よりファンが増えていくという幸せの連鎖が続いていて。

RADEBOOは、パートナーであるseikaと「デートにドキッとするような洋服を作りたい」と始めたブランドなのですが、ブランドストーリーや、僕が一度目の起業で失敗し、そこから這い上がって作った会社だとか、そこに共感をしてくれてファンになる方もとても多くて、商品以上のストーリーという部分でファンが増えているように感じます。

逆に意図的に増やす方法を知りたくて今日参加しました(笑)。

会社のビジョンやミッションは大事だと思いますが、それ以上にブランドはストーリーや熱い思いが大事だと思います。それが自然とファンが増えていく要因なのかなと思います。

Jay:そのストーリーというのは、どう伝えるとうまく伝わるものなのでしょうか。

阿部:こういうような場や雑誌の取材など、定期的にブランドストーリーは発信するようにしています。そこから思いが伝わり、浸透しているのかなとは思いますね。seikaは今でこそ10万人、私も3万人のフォロワーがいますが、ブランドを始めた当初は400人程度だったんです。発信をし続けることによってブランドストーリーに共感してくれて、それが大きくなっていくのではないかなと思います。

Jay:yutoriさんのブランドはいかがですか?

片石:基本的にはメッセージを主軸に考え、ターゲットの人たちが今着たい洋服に合わせてミックスで展開しているのが弊社の特徴だと思います。ターゲットの子たちが今何にムカついたり葛藤を抱えたりしているのか、実際にその年代のメンバーが企画しているので、リアリティに徹底的にこだわりを持てているところが強みです。

キャスティングも同様に、誰もが知っている人ではなく「これから来る子」をいち早く取り上げることを意識しています。逆にいうと、9090でモデルをしたYouTuberやTikTokerがその後どんどん人気になっていくという登竜門的な存在になりたいんですよね。

なので、気にしていることといえば、「リアリティをどれだけ追求するか」ですね。それを実現できるようなものづくりを意図しています。

Jay:「かっこいい」が定義できると持続できるかと思うのですが、yutoriさんは何かありますか?

片石:言葉にしすぎるとチープになってしまうのでむずかしいところではありますが、9090でいうと「生意気さ」ですかね。自分の思いを仮に他の人から共感してもらえなくても、声に出す必要はないけど、胸に秘めて自分の中で誇りを持って生きていこうよ、と。

あとは、ファンを増やすうえでは、ブランドの成長をコラボレーションやクオリティで伝えていくことも大切だと思います。ファンの方はブランドの進化を意外とよく見ているので、「応援してよかったな」と思えるようにワクワクを伝えていくことが重要。そして、軸をブラさずにアップデートしてくことが大切だと思います。

■ファンとのコミュニケーションの取り方

Jay:最後に、ファンとのコミュニケーションの取り方についてお伺いしたいです。

片石:SNSの活用に関していうと、アパレルブランドが多数参入していることや、同じようなやり方でグロースしているブランドが多いので、最近はInstagram全体として飽和傾向にあると感じています。対してTikTokは、アパレルに関してまだ着目されていない状況。なので、最近はTikTokに力を入れています。エンタメとしてブランドを提案しているので、熱量がすごく高いように感じますね。

Instagramは普通に使い、それ以外のSNSやオフラインなど、違う販路を持たないといけないフェーズになってきていると思います。

阿部:僕もInstagramが飽和状態であるということはひしひしと感じています。前ほどコンバージョンがあがることもなくなってきていますね。なので最近は、売るというよりもブランドの世界観を見せることに注力するようにしています。

あとは、ファンが参加できるイベントを定期的にInstagram上で開催しています。Instagramの活用方法は数年前とだいぶ変わっていると思いますね。これからは、ファンの方と接点を作るという意味でInstagramを活用するのがいいのかなと感じています。

Jay:なるほど。そろそろお時間なので、最後にECを運営している方に向けてアドバイスを一言ずつお願いできればと思います。

片石:正直なところ、D2Cも飽和してきている状況だと思います。マーケットから入るとなるとどこも参入しきっている状態なので、自分のパーソナルなことからビジネスを見つける方が、逆説的にうまくいくのではないかと考えています。

好きなことをビジネスにした方が楽しいですし、ピュアな熱量でやっている人の方が多くの共感を集めて大きくなっている、というか本来そうあるべきで。儲かることも大切ですが、順番として最初に来るべきではないと思うんですよね。「これが好き」という思いで参入する人がもっと増えていけば面白いですし、リスペクトできる人が増えるので嬉しいです。

阿部:片石さんがおっしゃったように、好きで始める人が増えたら僕も嬉しいなと思います。その中で、D2Cはやはり掛け算だなと感じていて。さまざまな要素がかけ合わさって売り上げがあがっていくわけです。

そして、ファン中心であるからこそ「好き」が続けられて、かつ熱狂的なファンの方に支持していただけるので、ファン中心で、かつ自分の好きを貫き、そこに共感してくれる人たちを集めることを続けていけば、1億・5億・10億・30億という売り上げの壁を超えていけるのではないかと思います。

Jay:そもそも片石さんと阿部さん、お二人のブランドの施策を真似する人はいないだろうなと、依頼する際に思っていました。というのも、施策そのものではなく、なぜその施策が生まれるかを考えることこそが、成功しているブランドの特徴だと思うからです。

やっていることは違いますが、お二人の共通点として感じたのは、なぜするのかをいつも考えていることと、お客さんとコミュニケーションを取っていること。そして、自分たちのお客さんが誰でどんなことを求めているかを理解しているブランドは強いとも思いました。

なので、今からビジネスを始める方も、既に始めている方も、この部分を改善していくことで長期的によくなるのではないかと思いました。最後にお二人からお知らせはありますか?

阿部:今後は、ホールディングスという形をとって世界に仲間を増やしていきたいと思っています。なので、グローバル展開を共に盛り上げてくれる、英語・中国語が得意な方をお待ちしております!

片石:僕も正社員で一緒に働ける方を募集しているので、よかったら教えてください!

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