広告の次の販路を開くマーケティングとは【D2C NEXT S2レポート】

2021年5月24日(月)に開催された、GAINWINGS CONFERENCE D2C NEXT。Session2では、広告の次の販路を開くマーケティングをテーマに、VALX代表・只石 昌幸さん、ベースフード株式会社 CMO・斎藤 竜太さん、アライドアーキテクツ株式会社 取締役・村岡 弥真人さんの3名に議論してもらった。

現在多くのD2Cブランドが中心に活用しているデジタル広告。では、広告を最適化したあとはどのように打ち手を講じるべきなのだろうか。

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Speaker

只石 昌幸さん(ただいし・まさゆき)
VALX 代表

株式会社レバレッジ ファウンダー兼CEO 法政大学を卒業後、キーエンスへ。その後、ホスト、アメブロブロガーなどを多様な職につき、レバレッジ創業。EC事業では類を見ない広告に頼らないマーケティング手法を活用し、創業後わずかの期間で飛躍的な成長を遂げる。現在は2024年の東証1部上場へ向けて、躍進している。

斎藤 竜太さん(さいとう・りゅうた)
ベースフード株式会社 CMO

ユニリーバ・ジャパンに入社しPOSデータ分析に基づくリテール向けのマーケティング、米Walmart社に出向しヘアケアのカテゴリー戦略立案や各国のビジネス開発を担当。その後、リノべる株式会社にて、出店戦略やCRM構築、MA導入に従事。17年5月より現職。創業メンバーとして、Webサイト運営から広告宣伝、CRM、PR、外部とのアライアンスなど、事業成長のためのマーケティング活動を統括。

村岡 弥真人さん(むらおか・やまと)
アライドアーキテクツ株式会社 取締役

SNSを活用した企業のマーケティングを総合的に支援するテクノロジーカンパニー。マーケティングDXを加速する自社開発のSaaSツールを提供する。

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■広告を一切使わず、YouTubeで3万個の売り上げを達成

村岡:今回のテーマである「広告の次の販路を開くマーケティング」を話すうえでは、広告の変化という背景がキーワードになってくると思います。近年、獲得広告のCPCは上昇傾向にあり、2016〜2017年は平均CPCが130円であったのに対し、2019年は230円前後ほど。この数字は2年前のものなので、現在はさらに上昇していることが予想できます。どれだけマーケティングが上手でも、ベースの単価が高くなっているので、ECを扱う企業にとっては難しい状況ですよね。

さらに、昨今議題になりつつあるのが、広告における表現の規制。今まで勝てていたクリエイティブの手法では戦えなくなってきました。広告業界にとってはいい側面である反面、広告単体での成果は合いづらくなってきており、この点はお二人のビジネスにも少なからず影響を与えているのではないでしょうか。

広告以外の販路でどうポートフォリオを作っていくかが、今後成長する上で不可欠。そこで、どのようにマーケティングをやっているか、特に企画設計が難しい6つの制作をピックアップし伺っていければと思います。

まずYouTubeの活用について、VALX只石さんのお話を伺えたらと思います。

只石:我々は、ブランドを立ち上げた一昨年の10月の半年前からチャンネルを開設し、現在登録者数が40万人ほどまで増加しています。毎日コツコツ配信を続けることでVALXの世界観を伝え、世界観に基づく商品として購入していただいていることを感じています。

村岡:ローランドさんとのコラボレーションはすごかったですよね。

只石:YouTube配信から7日間で、一緒に作ったプロテインが3万個売れました。一切広告を使わずに、YouTubeとそれに起因したSNSの拡散だけで達成できました。

村岡:3万個を広告で取ろうとすると、費用対効果が合わないですね。そもそもローランドさんとコラボするんだ、というところでかなり驚きがありました。

只石:「コラボ相手としてローランドさんに決めた理由は?」と尋ねられることが結構あるのですが、僕がホストで全く売れなかったこともあり、元々彼のことをとても尊敬していました。いつかコラボしたいという夢を今回叶えさせてもらった形なんです。

村岡:では、新規獲得のためにYouTube施策をしようと始めたわけではなく、ローランドさんと一緒にやりたいという只石さんの思いが先行して施策に繋がったということだったんですね。

只石:そうです。さらに言うと、山本義則先生とYouTubeを始めた理由も、トレーナーからの絶大な支持を得ていたからなんです。5年前から運営しているパーソナルトレーナーのマッチングメディアに登録している方にアンケートを取ったところ、「どの人からトレーニングを学びたい?」「どの人のプロテインを飲みたい?」という質問に対する答えとして断トツで多かったのが「山本義則先生」でした。当時は知らなかったのですが、レジェンドであることを知り、口説き落としてYouTubeをスタートしました。

村岡:そもそもの話ですが、さまざまなSNSの中からなぜYouTubeを選んだんですか?

只石:弊社のマーケッターが常に見ているのがYouTubeだったからです。YouTubeは今後当たるからやりたいと言われまして。

村岡:YouTubeを始める上での懸念点として、初期投資がかかるという点があると思いますが……。

只石:かかりますか? 必要なのは、カメラマンと編集と演者だけなので、僕は周りからYouTubeの相談を受けたら「やればいい」と伝えています。

村岡:認識の違いが大きくあるかもしれないですね。

只石:広告費に数千万をかけているのであれば、そのほんの一部でできるので、やってほしいと思います。そもそもVALXはかなり「挑戦」をするブランドだと思うんですよね。とにかく試すことでPDCAを高速で回していることが特徴です。だって、うまくいくかどうかはやってみないとわからないじゃないですか。

■D2Cとの相性がいいUGC

村岡:最近は、UGCの活用も増えてきていますよね。UGCは一般のユーザーがSNSに投稿するレビューのようなものを指しますが、斉藤さんはこれをどのように活用していますか?

斎藤:UGCは言うならば「口コミ」ですよね。広告は企業からのメッセージなのでベネフィットは伝わりますが、それで信用を得られることは多くありません。そこで大事になるのがUGCだと思っています。

UGCやPRは検証のコンテンツだと思うので、それがないまま広告で伝えたいことだけ伝えると、一瞬は売れるかもしれませんが、長続きしない。特にベースフードは「何だこれ?」という怪しさのある商品なので、実際に食べているコンテンツやユースケースを提示するのは、企業からよりもユーザーからの方が効果的だと考えているんですよね。

そもそもD2CとUGCは相性がいいと思っています。なぜなら、D2Cブランドはそもそも認知度が低いものが多いですが、認知度が低い方が「あなたは知らないかもしれないけど」と人に勧めたくなるから。勧めることで誰かの役に立ちたいという思いを掻き立てられるのです。

どんな施策をしているかと言われると難しいのですが、パッケージデザインやオープンしたときのビジュアル、美味しさなど、口コミが自然発生するようなプロダクト作りは大切にしています。

あとは、口コミが増えれば増えるほど、出稿できる広告料も増えるんですね。SNSで「ベースフード気になる」という投稿に対し「食べたことあるよ」と自然に誰かが感想を言ってくれるのが、我々が理想としている流れ。誰かが気になることに対しての体験者の口コミが増えていけば、広告を出した時のCPAも上がらなくなってくるので、UGCを増やしていくことで他の施策も伸ばしていけるかなと思います。

村岡:相関関係が面白いですね。「あったら嬉しいもの」と思いがちなUGCですが、ベースフードさんの感覚的には、UGCが増えるとダイレクトの方にも影響があると捉えているんですね。

斎藤:あると思います。弊社では、SNSでのオーガニックでの感想の投稿数をずっと追っていて、それが増えていない時には「なぜ?」を掘り下げるようにしています。

只石:ちなみに、TwitterとInstagramだとどちらがUGCが多いんですか?

斎藤:今はInstagramのストーリーが多いですね。ストーリーは追いにくいのですが、インターンの子が毎日頑張ってチェックしてくれています。

村岡:中には「UGCを増やしたくても増やせない」という声がありますが、ベースフードさんは増やすために行っている施策はありますか?

斎藤:弊社はベースパスタの後にブレッドを発売したのですが、パスタ発売当初はUGCのほとんどが「パスタだと思ったら蕎麦だった」というものだったんです(笑)。それがいいUGCだったかと言われると微妙で……。商品の改善こそがUGCを生むと考えているので、「最近ベースフードが美味しくなっている」と、変化を出すことを大切にしています。とにかく改善を重ね、毎月アップデートを発表しています。また、思いがけないコラボやPRがUGCに繋がっているとも思います。

只石:そもそも、一ファンとして言わせていただくと、ベースフード本当に美味しいですよね。低糖質が大好きな弊社のユーザーともかなり重なっていると思います。美味しくないと、コンテンツがよくないと呟かないですよ。

村岡:確かに、マーケティングと商品開発が自然と一緒になっているじゃないですか。これってかなり稀有な組織体制。分断されている組織が多いですよね。

斎藤:そうですね。ベースフードの場合、人数が少ないことが背景にありますが、商品開発担当がそのまま営業に行くこともあるので、そこはいい点だと感じます。

村岡:実際に作って一番思いがある人がピッチをしないと、化学反応を生むことは難しいのかもしれませんね。

斎藤:思いを持っている創業社長がいることは、スタートアップの強みだといえると思います。

■SNSは熱量がある人が担当すべき

村岡:続いて、広くSNSをどのように活用されているか伺えたらと思います。では、まずはVALXさんから。

只石:SNSは、Instagram・Twitterはもちろん、TikTokもやっています。VALXだけではなく僕もTwitterアカウントを開設しています。毎日エゴサーチをして、時にはDMを送ることもあります。

村岡:只石さん個人でも運用しているんですね。あえて個人のアカウントから送っているんですか?

只石:いてもたってもいられないんです。「どう思ってくれているのかな」と気になってしまうんですね。

村岡:只石さんにとってSNSとはどういう立ち位置なのでしょう?

只石:テクニック論ではなく、「ただ知りたい」「感謝を伝えたい」「謝りたい」。直接繋がれる時代だからこそ使っているだけです。

村岡:ベースフードさんはどのようにSNSを活用されていますか?

斎藤:ベースフード購入者には「せっかくお金を出して質のいいパンを買ったから美味しく食べたい」「ちゃんと食べて誰かに見てほしい」という欲求があることがわかりました。なので、Instagramではおしゃれな食事を披露する場として機能させることを重視しています。ただ機能がいいだけではなく、「楽しているけどちょっとおしゃれな暮らしをしている」ことが価値であり、食べることで自己肯定感が上がることが大事。そういった部分にSNSが大きく寄与しており、Instagramはそういう世界観作りに役立っていると感じます。

Instagramでは、2017年の創業当初から自分たちが食べてもらいたい方に対してギフティングをする施策も実行しています。DMを送り、弊社の思いに共感した方にお送りしていて、もしよかったら投稿もしてください、と。

只石:実はこれ、僕にも届いたんですよ!

村岡:確かに2社のユーザーがマッチしているというお話でしたもんね!

斎藤:たまにすごい方がアップしてくれることもあるんですよね。なので、UGCとPRの面で、Instagramは活用しています。今はDMですが、最初の頃は手書きの手紙も同封していました。

村岡:Twitterの活用はどうですか?

斎藤:ベースフードキャンプというTwitterと連動した企画を実施したことがあります。商品単体で売るのではなく、SNSを絡めたプログラムとしてモノを売ることは、特にTwitterと相性がいいと感じています。

村岡:ベースフードキャンプはどういう立ち位置だったんですか? 

斎藤:定期購入への引き上げももちろんですが、なるべく多くのタッチポイントを作りたいという意味もありました。

村岡:SNSにおいてお二人からのアドバイスはありますか?

只石:僕の元に「ブランドの代表がSNSをやるべきか」という質問がよくくるのですが、「単純にSNSを楽しめる人がやればいい」というのが持論です。楽しめないと続かないと思います。

村岡:熱量がある方がやるべきなんですね。

斎藤:我々の場合は、「ユーザーの声をいかに拾い商品開発に活かすか」「どう思われているかを把握する」という位置付けでSNSを活用しています。

只石:SNSをこれから始める企業は、SNSを好きな人に担当してもらうのが一番だと思います。

■現場でまさかのコラボが実現

斎藤:PRに関しては、そもそもキャッチーな商品なので、最初のうちはなるべく感度の高そうな読者がいる媒体を中心に取り上げてもらう活動をしていました。それがひと通り終わった後は、価値に共感していただいた経営者の方を中心にコラボレーションをお願いしていきました。

村岡:ゴールドジムさんとのコラボレーション、かなり上手だなと感じました。この辺りもアウトバウンドではなく?

斎藤:ゴールドジムさんは、銀行からの紹介でした。定期購入していただいているお客さんの中に社長さんがいる場合もあって、そこから実現したものもあります。問い合わせからのルートで実現するのは稀有なパターンですね。

村岡:確かに、只石さんもベースフードさんのお客様ですもんね。

只石:え、コラボします?!

斎藤:やっちゃいますか?

只石:ゴールドジムさんとのコラボを見た時、悔しかったですもん! ……本当にいいんですか?

斎藤:ぜひやりたいです。

村岡:スライドもらった時から「これ、只石さん入った方がいいのでは?」と思ってました(笑)。

只石:やると決めたらこれまでのコラボ実績を洗い出して、それを超える圧倒的な結果を出すと決めていますので!

斎藤:おお〜!

村岡:ぜひ実現してもらいたいです。

ちなみに、ゴールドジムさんでの取り組みもそうですが、最近伸びている会社さんは、ちゃんとオフラインも活用されていますよね。

斎藤:ブランドを成長させるためには、ライト層を増やすことが大切。そのためには、顧客とのタッチポイントを増やすことが重要だと考えています。なので、ゴールドジムを始め、コンビニやオフィス、Amazonなどにも導入しています。

BtoBに参入する際、自社ECの実績はバイヤーにあまり響かないのに対し、Amazonで売り上げ1位と伝えることで話がグンと進むことが多くあります。

村岡さん:分かりやすい実績ですもんね。

斎藤:自社EC以外に広げるきっかけとしてAmazonは使えると思います。

村岡:最後に、今後「広告が完全にゼロになるか」というとそうではない中で、これから成長を狙っていくEC企業がどのようにマーケティングをやっていけばいいかという点で、お二人から一言ずついただければと思います。

只石:まさに我々は、YouTubeを含めたSNSの力を日々感じています。なので、今後広告を何に代替するのかという部分で、SNSを活用してみてはどうでしょうかということを提案できたらと思います。

斎藤:まずモノを圧倒的に磨いたうえで、広告以外のタッチポイントを増やし、オフラインやUGCで自然と広まる状況を作れば、広告の成果を最大化できるのではないでしょうか。

村岡:ありがとうございます。本セッションでは、何かひとつの答えというよりは、明日からどうするかのヒントを提供できていたら嬉しく思います。

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