広告の次の販路を開くマーケティングとは【D2C NEXT S2レポート】
2021.06.27
2021年5月24日(月)に開催された、GAINWINGS CONFERENCE D2C NEXT。
Session4では、D2C事業作りに型はあるのかをテーマに、MOON-X株式会社 代表取締役・長谷川 晋さん、株式会社CAMPFIRE 取締役副社長・中島 真さん、株式会社SUPER STUDIO 共同創業者・取締役CRO・真野 勉さんの3名に議論してもらった。成功するブランドに共通点はあるのだろうか。事業作りの普遍性について語ってもらった。
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Speaker
長谷川 晋さん(はせがわ・しん)
MOON-X株式会社 代表取締役
2歳から9歳までアメリカ、シアトルで育つ。京都大学経済学部卒、体育会ハンドボール部主将。2000年に東京海上火災入社、法人営業担当。P&Gで10年間、Pampers・Gillette・Braun・SK-IIなどのマーケティングおよびマネジメントを統括。その後、楽天の上級執行役員としてグローバル17ヵ国および国内グループ全体のマーケティングを管掌。2015年Facebook Japanの代表取締役に就任、在任中にInstagramはMAU810万から3,300万に。2019年8月にMOON-X Inc.を創業。
中島 真さん(なかじま・しん)
株式会社CAMPFIRE 取締役副社長
アクセンチュア、DeNA、リブセンス取締役などを経て、2018年3月株式会社CAMPFIRE取締役就任。big株式会社代表取締役、ギフティ社外取締役、STiLy社外取締役。
真野 勉さん(まの・つとむ)
株式会社SUPER STUDIO 共同創業者・取締役CRO
学生時代からITベンチャー企業にインターンとして入社し、新規事業の営業に従事。同社の急成長に貢献し、東証マザーズへの株式上場を機に退職。2014年12月24日に株式会社SUPER STUDIOを代表林・花岡と共に共同創業。自社サービスである「ecforce」を広告宣伝なしで100ショップ様に導入いただく立役者である傍ら、採用人事として5年間で組織を100名程度まで拡大。現在は大手クライアント開拓などの営業と並行し、CROとして企業間アライアンスをリード、キーワードである「D2C」を軸にSUPER STUDIOブランドの啓蒙活動も担っている。
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真野:今回は、中島さんはクラウドファンディングの事業をしていますし、中島さんもクラファンを始めたという背景があるので、そこに絞りつつ、D2Cにとってのマーケティングについて深掘りできたらと思います。
Session4の大きなテーマは「クラウドファンディングはD2Cの事業作りの型となり得るのか」について。本日のアジェンダとしては、「そもそもクラウドファンディングとは」「上手くいく(いかない)クラファンとは」「D2C/EC事業者にとってのクラウドファンディングとは」という3つに分けて進めていけたらと思っています。
まずは、「そもそもクラウドファンディングとは何か」について。中島さんからお話いただけますでしょうか。
中島:正直なところを言うと、2010年前後にクラウドファンディングが登場してきてから、我々自身もある意味問い続けてきている問いだと思っています。
クラウドファンディングにおける大事なポイントは、「不特定多数」ということと「資金」であるという2点かなと思います。不特定多数の方から資金を募れるかという部分が、クラウドファンディングにおいて最も重要なポイントだと考えています。そういう意味でいくと、インターネットを使ってモノを売る機会を築き上げたという経緯で、晋さんがいらっしゃった楽天が2000年ごろに登場したことと、アナロジーとしては近いものがあると感じます。我々はそれをアップデートし、資金を集められるかにシフトする部分を担っていると思っています。
中島:長谷川さんはCAMPFIREさんと出会われて、次のプロダクト作りにクラウドファンディングを利用されていると思うのですが、そこを選んだ理由は何だったのでしょうか?
長谷川:僕からは、クラウドファンディングマーケティングの側面とモノづくりの側面について話せたらと思います。
マーケティング的な観点からいうと、クラウドファンディングはとても面白いと感じています。というのも、順番が逆になっていることが、かなりのイノベーションだと思うからです。通常は、いい製品を作ってからようやく、マーケティングのキャンペーンを始めてお客さん・ファンが生まれるという流れですよね。それが、クラウドファンディングではモノができる前から不特定多数の方に応援してもらえる。とんでもなくすごいことだと思いますし、マーケティング的な大きな意義があると思います。
そして、モノづくりの観点からも大きな意味を持っていると感じます。クラウドファンディングは、エッジの効いた尖ったモノを作りやすい、背中を押してくれる仕組みだと思っています。マス向けに売るためには、どうしてもある程度大勢に向けたモノづくりをしなければいけません。ですが、僕自身が現在クラウドファンディングで作ろうとしている製品も、実際エッジの効いたモノなんです。「こういうモノを本当は作りたい」「でも広く売れるかどうかがわからない」というモノも、クラウドファンディングという仕組みを使うことで、ニーズがあるのかを検証したうえで進められるので、背中を押してくれる仕組みだと感じています。
資金を集めるというところもとても大切ではありますが、MOON-Xとしては、この2つの点で大きな意義を感じながら取り組んでいます。
真野:CAMPFIREにはさまざまなプロジェクトがあると思いますが、最初は違うプロダクトを自社でやってきたけれど、途中からクラウドファンディングを使う方と、最初からクラウドファンディングを利用する方の比率はどれくらいなんでしょうか?
中島:感覚でいうと、自前で立ち上げられてその後クラウドファンディングにトライするケースが増えてきているように思います。
真野:それは成功事例が増えたからなのでしょうか?
中島:増えてきた背景には、事例が整ってきたことがあると思います。
中島:クラウドファンディングは最初、ガジェット系などお金がすごくかかるものが多かった印象がありましたが、現在は長谷川さんのプロジェクトのような細かいものも多くなってきたように感じます。その辺の推移はどうですか?
中島:私の感覚からすると、「細かいもの」や長谷川さんがおっしゃっていた「エッジがあるもの」が仮に同じだとすると、昔も今もそこが一番多いと思います。そういうモノを世に問いたいというケースで利用することが多いことは、これからも変わらない気がします。
真野:何を「上手くいく/いかない」定義とするかは難しいですが、どういったところに差があるのでしょうか?この点は、中島さんにお願いできたらと思います!
長谷川:この点は僕もすごく聞きたいです!
中島:何をもって上手くいくかによりますが……。大きく言うと「挑戦自体のスタートを切れること」かなと思います。その点では、1億円であっても50万円であっても同じ価値であると思っていて。やろうとしていること自体ができる資金が集まることがスタートラインだと思います。
そのうえで、ホットグループを形成できるかが、その後の資産としてクラウドファンディングで作っていけるものかなと。売り手・買い手という関係性ではなく、仲間になる人たちを、どれだけスタートの火種として集められるかということは、大切なポイントだと思います。その点で、「上手くいく/いかない」をあえて言うと、コミュニケーションですね。プロジェクトは一般的に1〜2ヶ月継続して行うのですが、そこで継続的な努力ができるかどうかと、コミュニケーションの透明性が高いかが重要だといえます。仲間を探す際に、いかに赤裸々に誠実に話ができるかは大事だと思います。
真野:ホットグループを作ることは結構泥臭いのかなと思うのですが、上手くいっているところはやはり細かいところまで努力されているということなんですね。
中島:そうですね。見えていないところも含めて取り組まれているケースが、上手くいっていることが多いと思います。
真野:その点、CAMPFIREさんがお手伝いしてくださるサービスはあるんですか?
中島:PRの側面をサポートすることもありますが、もっと大枠でいうと、CAMPFIREというプラットフォームにプールされている顧客自体が、我々が提供している一番の価値かなと思っています。それには、クラウドファンディングであれD2Cであれ、顧客の消費に対する価値観の変化が背景にあると思っていて。というのも、一度クラウドファンディングで支援された方は、他でも支援されるケースが多いんです。そういう価値観を持っている顧客層が背景にあると思います。
真野:僕自身、以前はあまり興味がなかったのですが、D2Cに関わるようになってから、深くストーリーを聞いたり中身を見たりすると応援したくなって購入することが増えました。
長谷川さんは、ホットグループを作っていく仕掛けはされていますか?
長谷川:イベントをやったり泥臭く動いたりすることはとても大事だと思います。ただ、僕らは今それを学ぼうとしている立場にいるので、「こうやったらいける」というノウハウは持っていないのですが……。僕自身は、HOWの話よりも先にWHOとWHATがくると思っていて。どういうお客さんとどう向き合って何を作るのかが大事。なので、僕らの仮説としては、「上手くいく/いかない」クラファンの線引きは、お客さんと共創ができるか、お客さんとの向き合いができるか、ではないかなと思っています。僕らがやろうとしているのはそこですね。
今回のレモンサワーは、想いだけで作ろうとしているのではなく、丁寧にマーケットと向き合って作ろうとしています。お客さんのニーズと向き合って汲み取ったうえで、こだわりのレモンサワーを提案させてもらっているので、根幹には、お客さんとどれだけ向き合い、何を作るか、というWHATの部分を練り込むことがあります。そのうえで、真さんがおっしゃっていた、丁寧に誠実にコミュニケーションしていけるか。そのあたりにヒントがあるのではないかと思ってやっています。
そして、「上手くいく/いかない」の定義も大事ですよね。我々が考えている成功は「継続性」です。パッとレモンサワーを出せることが成功ではなく、その後も愛されブランドになっていき、それを燃料にしてさらに多くの方を巻き込み、日本のお客さんと磨いたうえでグローバルに逆輸出して愛されることが、僕らにとっての大成功。とはいえ、プロジェクトオーナーごとに成功の定義は異なるので、押し付けるものではないと思います。
真野:定義を考えることは大切ですよね。
真野:では最後に、D2C/EC事業者にとっての「クラウドファンディング」とは、について話していきたいと思います。まずは中島さんからお伺いできたら。
中島:しつこくなってしまいますが、ホットグループを作るかということが我々が果たさなければいけない使命だと思っています。最初に応援してくれる顧客・仲間はD2C・EC事業者さんにとって替えが効かない存在だと思うんですよね。そこの温度感や質感によって、継続的な成長などが変わってくると思います。そのマッチングにこだわってやっていきたいと思っています。
長谷川:D2Cは売り方にフォーカスが当たることが多いですよね。直接売るチャネルとして語られることが多いですが、それは一部でしかなく、もっと広い範囲であると個人的には思っています。D2Cは、お客さんといかに直接繋がるアプローチだと僕自身は捉えていて、その捉え方をするとクラウドファンディングは、将来のお客さんと最初に繋がるきっかけを作ってくれる仕組みであると感じます。ただ、お客さんとの繋がり方は壮大な話であり、企業ごとに勝ち筋やこだわりは異なるものなので「絶対にこうあるべき」というものではないと思います。その中の存在感あるひとつとして、クラウドファンディングがますます重要度が上がってきているというように捉えています。
一方で、MOON-Xは「次世代のブランドと人の発射台となる」というミッションを掲げているのですが、クラウドファンディングは、まさにそういう発射台になってくれる仕組みだと感じています。お金を集めるだけではなく、最初からファンがついてくれたり、エッジの効いた製品制作の背中を押してくれたりするので、ブランドや製品の発射台として重要な役割を担ってくれていると思います。今後ますます加速すると感じますし、飛ぶ距離が遠くなったり、大きなスケール感のものが日本から登場したりするようになる気がしています。僕らもそれを担えるような存在になりたいと思っています。
真野:まさに発射台ですね。安心してスタートできるプラットフォームであり、今後スタンダードになってくるものですよね。テーマとしてはここで終了なのですが、長谷川さんと中島さんでお互いに質問があれば、お話できたらと思っています。
中島:テーマ3の続きになるのですが、誤解を恐れずにいうと、これまでのマーケティングは、情報を取得することに重きを置きすぎていましたよね。共創と聞いたときも、顧客からアイデアを募集することがスタートであることが多かった気がします。それはその時代にとって大事なことではありましたが、今は情報を取得する以上に情報を提供することがスタートになっている時代。それくらいモノを提供する企業の視点も上がってきているんですよね。大きな仮説を打ち立て、そこをスタートにやり取りが始まるというところがD2Cのミソですし、クラウドファンディングで役立てる部分なのかなと、話を聞いていて改めて感じました。
長谷川:すごくいいポイントだと思います。情報提供をユーザーがより求めていることもありますし、テクノロジーによって作る方も情報提供ができるようになった側面もあると思います。昔は、モノ作っても結局消費者との接点を持てるのは小売業の方だったので……。テクノロジーによる行動自体の変化が、大きな役割を果たしていると感じます。
中島:長谷川さんは前職を経て起業されて、やっていることが真逆であり、そこのインパクトが大きかったのではないかと思うのですが、そのあたりの切り替えはどのようにされているのでしょうか?
長谷川:実は、全く逆だとは思っていないんですよね。感覚的には、やるべきこと・考えるべきことの骨格は変わっておらず、筋肉の動かし方が変わったような感じでして。P&GではWHO・WHATを真っ先に仕込まれるのですが、その骨格をやり切ることは、D2Cであってもそうではなくても変わらないと思うんです。唯一変わったのは、テクノロジーの進化によって今までとは違う動き方やスピード感で動けるようになったこと。根幹のところは変わっていないので、そこが面白いところであり、逆に僕らみたいな経験を積んだ人間も、テクノロジーによって何ができるかにしっかりアンテナを張っていたら、まだまだやれるところがたくさんあるのではないかと思っているところです。
真野:そろそろお時間ですね。今回のお話を聞いて、クラウドファンディングがD2C・EC事業者にとってかなりプラスの役割を果たしていくだろうということが見えてきた気がします。最後にお二人から一言ずついただけたらと思います。
中島:僕自身モノづくりがとても好きなのですが、周りを見ていると、企画はなかなか通らないものであることを実感しています。一方で、通らなかった企画の中には、それをとても必要としている方がいるケースがあることも、クラウドファンディングを運営している中で感じています。これが現代における重要な消費のあり方だと思います。ぜひそういうモノを世の中に出したいと思いながらやっているので、ピンときた方はぜひご相談いただけると嬉しいです。
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