eスポーツの産業化を目指すREJECTが描く未来とは。資金調達の裏側。
2021.11.02
2021年5月24日(月)に開催された、GAINWINGS CONFERENCE D2C NEXT。Session5では、D2Cの資本戦略と資金調達をテーマに、株式会社ANOBAKA パートナー・萩谷 聡さん、ラズホールディングス株式会社 代表取締役CEO・戸田 貴久さん、イークラウド株式会社 代表取締役・波多江 直彦さんの3名に議論してもらった。
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Speaker
萩谷 聡さん(はぎや・さとし)
株式会社ANOBAKA パートナー
2013年3月東北大学大学院理学研究科修了。在学中は自身でWebサービスを立ち上げ、運営。2013年KLab株式会社に入社後はゲーム事業部にてモバイルゲームの運用、新規ネイティブゲームの立ち上げに企画として従事。2015年4月よりKLab Ventures株式会社に参画し、複数の投資先ベンチャーの支援を実施。2015年10月に株式会社KVPに参画し、30社以上の投資実行、支援を実施。
戸田 貴久さん(とだ・たかひさ)
ラズホールディングス株式会社 代表取締役CEO
1990年、鳥取県出身。岡山大学経済学部卒業後、鳥取銀行入行。ベンチャー企業で下積みを経験、2015年にラズホールディングス株式会社を創業。アフィリエイト、コンサルティング事業を通じて創業1年で年商1億円超を達成し、数千万円で事業売却。2017年5月にモンゴルに移住、同年12月にHushTugを本格始動。
波多江 直彦さん(はたえ・なおひこ)
イークラウド株式会社 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒業後、サイバーエージェントに入社。広告代理部門、スマホメディア、オークション事業立ち上げ、子会社役員等を経て、サイバーエージェント・ベンチャーズで投資事業に従事。その後XTech Venturesにてパートナーとして、VR・SaaS・モビリティ・HRTech・シェアリングエコノミー・サブスクリプションサービス等への投資実行を担当。2018年7月にイークラウド株式会社を創業、代表取締役に就任。
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波多江:Session5では、ゲストにANOBAKAの萩谷さん、ラズホールディングスの戸田さんをお迎えし、モデレーターはイークラウドの波多江でお送りしていきます。まずお二人に自己紹介をお願いできればと思います!
戸田:戸田です。元々アフィリエイト事業で起業し、それを売却して今はモンゴルにて、モンゴルレザーを使ったHushTugというブランドを運営しています。僕たちは工場からECサイトまで自分たちで運営しており、高品質なモノを適正価格で販売していることが強みです。今はコロナの影響でモンゴルへ1年半行けていない状況なのですが、職人2〜3名からスタートし、モンゴルで最大の工場へと成長しました。
資金調達に関しては、今年4月に波多江さんの会社であるイークラウドにて調達を達成。イークラウドを活用してクラウドファンディングでお金を集めたのですが、それを見た個別の5名のエンジェル投資家さんに「投資したい」と言っていただき、総額で3,500万円の調達を行いました。
萩谷:シード・アーリーのベンチャーキャピタルをやっています、ANOBAKAの萩谷です。弊社はIT領域であれば全般的に投資を行なっており、投資先は計100社に近づいてきているところです。
波多江:中にはシード・アーリー・ミドル・レイターという成長ステージに馴染みのない方もいると思います。D2Cの領域でいうとどれくらいのレイヤーにあたるのでしょうか?
萩谷:特にD2Cだと、起業直後でコンセプト段階のところで投資することもありますし、プロダクトの初動だけできてきたという段階での投資もあります。売り上げが数百万円あがってきたタイミングの場合もありますし、柔軟に対応しています。
幅広い支援を重点的に行なっていることもあり、さまざまな投資先のナレッジが溜まっていることが強みです。それをお伝えしたり、各業種のスペシャリストとお繋ぎしてグロースを支援したりしています。
波多江:100社のうち、D2Cの会社はどれくらいあるんですか?
萩谷:やはり最近増加していて、10〜20社くらいあると思います。
波多江:1〜2割もあるんですね。では、その中でも代表的なものをご紹介いただければと思います。
萩谷:直近でリリースを出した「NELL マットレス」を提供する株式会社Morghtは、寝具のD2Cを行う企業です。株式会社Crunch Styleは、D2Cというよりはサブスクリプションコマースに近いのですが、全国各地の花屋をネットワーク化しており、低価格で花が届くサービス「Bloomee LIFE」を提供しています。株式会社Clearは、日本酒のラグジュアリーブランドを展開していいる企業です。リリース前やリリースしたての企業などに投資しています。
波多江:とても幅広いですよね。
では、モデレーターの私も自己紹介させていただきます。新卒でサイバーエージェントに入社し、さまざまな事業の立ち上げを経験しました。その後サイバーエージェント・ベンチャーズで投資事業に従事、VCを経て、イークラウド株式会社を創業しました。ITビジネスの経験と投資経験を活かし、株式投資型クラウドファンディングという新しい資金調達の方法を提供する会社を経営しています。
イークラウドは、プラットフォームとして、ベンチャー企業と個人投資家の2つをマッチングするビジネスを行なっています。個人投資家を熱量の高い応援団にしていくという形のサポートをさせていただいており、現状、半分ほどがD2Cの企業です。
波多江:それでは、メインテーマに移っていきたいと思います。今回は、属性の異なる3名が揃っていますので、さまざまな資金調達の方法をご紹介できればと考えています。
まずは「D2C資金調達のリアル」について。これまでどのような調達を行なってきたのか、戸田さんにお伺いできればと思います。元銀行員ということで、お金については新卒時代から理解して経営されていますよね。
戸田:一般的には、起業する時は日本政策金融公庫さんや親、友人から借りることが多いと思いますが、僕らはアフィリエイトという事業からスタートし、その事業を売却して3,000万円ほど資金を得てそれを全てHushTugにつぎ込んだので、スタートが少し異なるかなと思います。
そして、売り上げが徐々に伸びてくるとD2Cに必ず付き纏ってくるのが「在庫」。拡大するにあたって増加する在庫にかかる費用は、信用金庫や日本政策金融公庫から少しずつ調達しました。ここが約3,000万円ほどです。
さらにもうひと回り大きくする際に、イークラウドさんと個人投資家さんから3,500万円調達しました。現在、合計で1億弱くらいですね。
最初、D2Cをやっていると赤字になることが多いので、銀行はなかなか相手にしてくれないと思いますが、少額でもいいので資本入れてもらって少し自己資金があると融資がスムーズに進むので、これから起業する方にはお伝えしたいですね。
波多江:事業の売却益と銀行の借り入れ、株式の調達を組み合わせてここまでやってきた形なんですね。
萩谷さんには、先ほど3社投資先についてご紹介していただきましたが、各社のフェーズはどのあたりなんでしょう?
萩谷:3社の中で一番若いのが最近出資した株式会社Morghtで、古株が株式会社Crunch Styleですね。
波多江:では古株からお伺いしていければと思います。
萩谷:株式会社Crunch Styleは、実は最初はお花系のメディアを運営していました。メディアのPVも順調に伸びていたのですが、なかなかメディアだけではスケールしにくいところがあり、2017年あたりにサブスクリプションサービスをスタートしたんですね。弊社は、サブスクリプションサービスをスタートし、数字がついてきたあたりから関わり始めました。
日本酒の株式会社Clearも、最初はメディアを運営していたんです。メディアをやっていた時から、「これからは高級日本酒が業界に必要」「酒蔵さんと組んでラグジュアリーな日本酒を作りたい」という思いを持っており、出資させていただいた形です。
波多江:D2Cの第一世代じゃないですけど、数年前からやっていた会社ですよね。メディアを運営していて、そのマネタイズ手段としてこれまでのアセットを使って作っていくという企業が多かったですが、この2社はそういった立ち上がりということだったんですね。
萩谷:そうですね。
波多江:今は注力度でいうと、メディア業とD2Cの物販業はどれくらいの割合になっているんですか?
萩谷:Clearに関しては、SAKETIMESというメディアを運営していることでさまざまな酒蔵さんとコネクションができるというアセットになっているので、本事業に活かせる部分が大きいといえます。Crunch Styleも花屋さんとのコネクションを繋げる部分で同じなので、戦略的に運営していますね。
波多江:集客だけではなく、業界との繋がりにおいてメディアが活きてきているということですね。では、最近出資された「NELL マットレス」の株式会社Morghtさんはどうですか?
萩谷:NELLは実は、ピボットして睡眠市場に参入しているんです。プレシードという若い時期はコミュニケーションのSNSを運営していた企業でした。その時期に、起業家の推進力に惚れて出資させていただいた形だったんですね。
ベンチャー企業において、まずはプロダクトをリリースするまでの資金を調達することはとても重要だといえます。NELLの場合は、睡眠事業の手前に人材紹介事業も行なっており、それでキャッシュをしっかり作り、睡眠業界についてしっかり調べてプロットをしっかり作成したというストーリーがありました。それで初動が立ち上がってきたので、追加出資したという流れです。
波多江:出資額は、具体的にはどれくらいだったのでしょうか?
萩谷:プレシードの段階では5,000万円以下。プレシリーズAの段階で1億弱ですね。
波多江:数千万前半の段階でD2Cを立ち上げ、モノが売れて見えてくると、数千万後半になるというイメージですかね?
萩谷:そうですね。リリースした時の初動やCPA、お客様への刺さり具合を見てプレシリーズAでどれくらい跳ねるかが決まってくるかなと思います。
波多江:「刺さり具合」はどのように計測するのでしょうか?
萩谷:まず、プロットの段階で50〜100名に使ってもらい、リアルな口コミを集めます。本リリースした後のユーザーアンケートもチェックしますし、リリース後もSNSでの口コミがどうなのかを細かく見ています。
波多江:戸田さんも顧客の声を集めることに積極的に取り組んでいると伺ったのですが、どのような取り組みを行なっていますか?
戸田:購入してくださった方のアンケートを徹底して実施しています。購入後30日間に定期的にステップメールを配信しているのですが、レビュー取得が全体購入の10%以上、アンケート取得が30〜40%あるので、よかった点や改善点はかなり集められていると思っています。
中でも特に重視しているのが、「振興ブランドなのに、どうしてわざわざHushTugを選んだのか」という部分。ここをより具体的に言語化してもらっており、カスタマーと1対1で話す機会を設けるなどして具体的に深掘りしています。
波多江:D2Cの特徴として、ユーザーの声を直接聞いていいものを作っていけるということがあると思います。お二人とも、起業家と投資家という違う立場ではありますが、その点を重視しているということにおいては共通しているということですね。
波多江:先ほども少しお話ありましたが、周りの起業家さんなども見た上で、数千万円の調達は簡単にできるものでしょうか?
戸田:いや、簡単ではないですね。
萩谷さんが話していた人材紹介事業でキャッシュを作ったという事例がありましたが、「他のキャッシュ作りやすい事業で、立ち上げ期の赤字を埋めました」という話はよく耳にします。いきなり数千万円の調達はかなり成功例で、D2Cブランドの中では目立った存在というイメージです。数千万円をいきなり調達するというのは、あまり期待しない方がいいのではないかというのが個人的な印象です。
波多江:ANOBAKAさんが絡んでいる案件ではどうですか?
萩谷:数千万円、1億円という資金調達はかなり成功例であるということについては完全に同意ですね。
プロダクトができる前と後だとかなり見え方が違うという点はあるので、別事業でキャッシュを作ったり、補助金や助成金を活用したりしながら「こういうストーリーでこういう商品を出します」と示せる形までしぶとく作っていくことが大事だと思います。
示せるものがない段階でのエクイティファイナンスだと、経営者への出資という形になるので、金額としても小さいことがほとんどだといえます。
波多江:ANOBAKAさんの3例に関して、日本酒や花に比べてマットレスは結構大変なイメージがあるのですが、どこまで自社でどこからパートナー会社が担当しているんですか?
萩谷:老舗のマットレス企業と共同で作っていて、1個当たりという形で買い取り、在庫として持つという形を取っています。
波多江:戸田さんの「工場を持つ」スタイルは、D2Cの中でもそこまでやらない経営者が多いじゃないですか。モンゴル国内に自社工房を作り、モンゴル人をあれほど雇用しているのは特殊な例ですよね。工場を持つ資金など、一見大変そうに見えるのですが、ここまでどのようにやってこられたんですか?
戸田:工場というと莫大な初期投資が必要だと思われがちですが、バッグを作るにはそれほど大掛かりな設備は必要ではなく、人とミシンでできるんですね。なので、工場を作る中では初期投資は軽い方だと思います。工場そのものに関しても、モンゴルはまだ発展途上国なので、840平米で家賃30万円ほど。なので、総じてそれほど重たい投資ではないんです。
波多江:海外だと物価差もあるのでできることがあるというわけですね。
萩谷:初期から自社でやっていると、生産体制がコントロールできるのがいいところだと思います。他と一緒に組んで作ると、延びた場合にどう進めるかと議論になることが多くあるのが事実です。
波多江:延びてきた場合、工場ごと買い取るベンチャー企業もあるんでしょうか?
萩谷:ありますね。初期から話した方がいいのかなとも思います。
波多江:萩谷さんが現在注目している、D2Cと相性のいい資金調達方法はありますか?
萩谷:海外でよく聞くのが、サブスクリプションの話になるのですが、将来債権を買い取り融資という形にできる調達方法です。日本でもこの動きが増えてくるのではないかと思います。
波多江:どれくらい借りられるものなんですか?
萩谷:それは100万円から1,000万円の間くらいでしたね。
波多江:なるほど。イークラウドとしては、広告費の後払いをどれだけできるかによって、キャッシュサイクルを上手に回すという方法をよく耳にします。また、キャッシュリッチな提携先があれば、「売れたらベースでいい」と対応してくれる場合もありますよね。さまざまな手法を使いこなすことで、成長速度も上げられるといえるでしょう。
波多江:続いて、資本業務提携について伺いたいと思います。
事業会社など、販路を持っているところとの提携関係がD2Cの中でも広がってきています。お金を入れてもらうだけではなく、ノウハウや物理的支援を受けているD2Cブランドが増加していますよね。戸田さんはこれからですか?
戸田:そうですね。次そういう段階を仕掛けていくという形になると思います。
波多江:萩谷さんに関しては、そういうステージまで進んだケースはありますでしょうか。
萩谷:弊社では、ガッツリその段階に入った投資先はないのですが、中国展開をするうえで向こうの会社と業務提携をすることは多いです。投資先ではないですが、丸井グループさんも資本業務提携を発表しましたよね。後半になってくるとオンラインだけでは取れないフェーズになるので、リアルに強い企業に入ってもらえるのはとてもいいことだと思います。
弊社のケースだと「NELL マットレス」はリアルな販路を開拓することは重要なので、ホテルやマッサージ店など、次のファイナンスに向けてさまざまなところと組んでいこうという話は既に出てきています。
波多江:戸田さんは、今後の販路についてどう展開していこうと考えていますか?
戸田:リソースが限られてくるので、10億規模くらいまではオンライン特化でやっていこうと考えています。ただ、ショールームから始めることを検討したり、地方のカフェを利用した「リアルアフィリエイト」の実験をスタートしたりと、オフラインも徐々に仕込んではいるところです。
波多江:資本業務提携はD2Cの拡大とともに最近出てきた形ですよね。
萩谷:D2Cが結構な規模まで作れることが示されてきているので、そこでいい流れかなと思います。
波多江:より大きな話でいうと、海外展開を視野に入れているD2C起業家はいると思います。戸田さんはそもそもスタート時点で海外を絡めているわけですが、今後の海外展開についてはどうお考えですか?
戸田:とてもざっくりした言い方ですが、大陸で繋がっているところはモンゴルチームが売り、海を越えたところは日本チームで売ろうと決めています。ロシアや韓国での出店の話がきたこともあり、グローバルな事業設計としてはできているのですが、あとは売れるかどうか。
海外の方が日本に比べてソーシャルグッドという文脈が強く、英語版のECを作ってほしいという声も届くのですが、どうしても海外へ進出しようとお金がかかるので……。どのように資金調達をするべきかを知りたいと思っているんですよね。
萩谷:海外進出するうえでガッツリ組んでいるところは、まだないかもしれないです。海外のパートナーからしっかりお金を入れてもらう動きは、今後加速させたいですね。日本初のブランドが売れ始めてきている段階なので、この流れが進んだら海外のお金が入ってくる可能性もあるかもしれませんし、それを作っていきたいなと思います。
波多江:ここでひとつ、届いている質問に答えられたらと思います。「D2CのEXITについて、選択肢や展望があればお聞きしたいです」。戸田さんへの質問ですね。
戸田:僕はIPO一択で考えています。海外展開という点で、最初からグローバルブランドを作ろうという志で作っているので、IPOしか考えていないです。ただ、僕以上に上手にやっていけて「会社がほしい」というのであれば、M&Aも考えるかもしれません。
D2C全体としては、M&AとIPOのどちらを考えている起業家さんが多いんですか?
波多江:VCとしてはIPOをしてほしいですよね(笑)。
萩谷:そうですね。IPOを狙えるくらいのスケール感を描かなければ、いいM&Aはできないというのはまず前提として思っているので、IPOを狙えるくらいの規模感を目指して投資はしています。M&Aに関しては相手ありきなので、何ともいえないところがありますね。悪い話ではないので、作っていきたいとは思っています。
波多江:最後にお二人に一言ずついただければと思います!
萩谷:VCですが、エクイティファイナンスはひとつの手段ではあるものの、エクイティにこだわる必要はないかなと思っています。 さまざまな資金調達の手段を調べ、適切に利用してもらいたいです。
戸田:僕自身、イークラウドさんを利用させてもらって、ピボットしがちだったりユーザの声を集めたりするのが大変な初期段階において、両方を一気に解決できるいい方法だと感じました。さらに進んで大きく資金調達したい場合はお二人とも相性がいいと思うので、ぜひ相談に行ってみてはいかがでしょうか。
波多江:エコシステムが整ってきているので、事業会社の方もスピンアウトして起業家としてやっていく道が道が拓けてきていると思います。資金調達や今後の事業について考えているのであれば、ぜひ気軽にご相談していただけると嬉しいです。
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